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株式会社kiCk

「マネドラ、恐るべし」── “わかってるけどできない”を超えたクリエイター集団の半年間。創業者の手を離れ、自走を始めた株式会社kiCkの軌跡

この事例の概要

導入前の課題

約40名のクリエイティブエージェンシー。共同創業者が現場を離れ、それまで現場の統括を一手に担っていた取締役が代表に就任するという経営体制の変更期にあった。現場を誰が見るのか、答えのないまま新体制が走り出していた。

導入後の変化

各セクションが自主的に「自分たちの組織は何を目指すのか」を議論し始めた。課題を持ち帰って温める職人文化から、その場で意見を出し合える組織へ変化。リーダーが自らチームのミッション・ビジョン・バリューを作成して提案するようになった。

成果

  • 導入した年に過去最高業績を記録。
  • 各部門が自走している手応えが生まれた。

経営体制が変わる。でも、現場を誰が見るのか──答えのないまま走り出した

「GET YOUR KICKS!─ ワクワクで世界を変えていく」をモットーに掲げるクリエイティブエージェンシー、株式会社kiCk。2013年の設立以来、コミュニケーションの課題解決を本質とし、ナショナルクライアントを中心にブランド戦略からクリエイティブアウトプットまでをワンストップで手がけてきました。社内にプロダクション機能を持ち、デザイン、CM・動画の撮影・編集までインハウスで完結できる体制は、同社ならではの強みです。
▼株式会社kiCk
https://kick.co.jp/

約40名の組織が大きな転換点を迎えたのは、約1年前。
取締役副社長だった市川辰徳さんが、代表取締役社長に就任しました。
ただ、この変化の本質は、肩書きの交代だけではありません。
それまで市川さんは、経営の意思決定を現場へと接続し、組織を前進させる実務の要でもありました。社長に就いたことで、これまでと同じ距離感で現場を見続けることは難しくなる。経営と現場をつなぐその役割を、今後誰が担うのか。新体制のスタートは、その問いと向き合うことでもありました。
「経営体制を変えるということだけが決まったのが正直なところですね。代わりの人を誰かそのポストに入れるのか、採用するのか。答えがないままでした」(市川さん)
答えのない問いを抱えたまま、新体制は走り出しました。そのタイミングで人事責任者の藤原建佑さんが提案したのが、半年間のマネジメント・ブートキャンプ・プログラム「マネジメント・ドライブ」の導入でした。

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写真左:株式会社kiCk 代表取締役社長 市川辰徳(いちかわ たつのり)さん
写真右:人事責任者 藤原建佑(ふじはら けんすけ)さん

「単発研修で火をつけても、2ヶ月後には消えている」── 半年間の”こってり”を選んだ理由

組織変革の手段は、単発研修のほうがはるかにライトです。それでも、なぜ半年間の”こってり”したプログラムを選んだのか。
市川さんは振り返ります。
「単発研修の場合は、その場でどれだけ出せるかが軸で、あとはもう各自の責任になりやすいと思うんですけど、このプログラムの場合は、しっかり自分事化して着地させるための期間がありました」
実際に走ってみて実感したのは、1ヶ月ごとのタームが持つ意味の大きさでした。
「あの時言っていたのはこういうことだったんだ、と2週間経ってからわかるようになることも結構あるんです。うちのメンバーの特性からしても、単発研修だと場では炎がバーッと上がるんですけど、徐々に1ヶ月ぐらいで消えていって、2ヶ月後にはもう前とそんなに変わらない。それがそうではない形になりました」(市川さん)
藤原さんも、同じ確信を持っていました。
「単発で終わってしまうと続いていかない。習慣化していくことがすごく大事だなと感じた時に、マネジメントドライブが適切だなと思ったんです」(藤原さん)

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「研修って聞いただけで寒い目になる」── クリエイター集団と”マネジメント”の距離感

とはいえ、クリエイター組織に「マネジメント研修」を持ち込むことへの懸念がなかったわけではありません。マネジメント・ドライブの浜岡自身も、元々クリエイティブ企業の出身。「研修って名前聞いただけで寒い目になるメンバーばかりだった」という実感がありました。
しかし、kiCkには独自の土壌がありました。バリューに掲げる「GO FAR」──仲間と目的を共にして、遠くを見据えた伴走者になる。みんなの力を引き出し合いながら前に行こうという社風。人と人との関わりが仕事の真ん中にある環境で、メンバーたちは「うまくいかない」をたくさん経験していたのです。
「デザインチームは社内の中でも一番人数が多い組織で、年齢も結構グラデーションがあります。リモートが浸透している中で、近い仲間なんだけど見えない状態をどうやってチームとしてドライブさせていくか。おそらくみんなの肌感的にも答えがないという、無言の共通認識がなんとなくあったと思います」(市川さん)

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半信半疑で始まったプログラム。しかし、初回の学習会がメンバーの扉を大きく開きました。
「みんなの口から後から聞くのは、人は慣れた環境に留まりたがるもので、その現状維持の力もモチベーションの一種なんだよという、あの話が結構みんな目から鱗だったようです。自分たちもまさにそうだったと気づいて、この半年間走ったらその状態を変えられるんじゃないかという予感を持っていたんだと思います」(市川さん)
プログラム導入を社内で推進する立場だった藤原さんは、正直、不安のほうが大きかったと語ります。
「6ヶ月間という期間もありますし、最後にはプレゼン大会もある。途中で心が折れてしまうのではないかと最初は思っていました」(藤原さん)
しかし、クリエイティブメンバーから不満の声は上がりませんでした。忙しさゆえの時間調整の相談はあっても、正面切って「やめたい」という人はいなかった。藤原さんはそこに、kiCkという会社の文化を再確認したといいます。
「みんなその中で何かを学ぼうという文化が、うちの会社にちゃんとあるんだなという確認ができました」(藤原さん)

自分たちの組織を、自分たちの言葉で語り始める

変化の兆しは、プログラムの初回と第2回の間に早くも表れました。各セクションが自主的に「自分たちの組織は何を目指すのか」を何度も議論し始めたのです。
ちょうど新しいバリューが発表されたタイミングと重なったことも大きかったと藤原さんは振り返ります。
「そもそも部門としてどうなっていくのか、そういうことを考える場自体がまずなかったんです。会社がこういう方向に進んでいくんだという話があったタイミングの後だったので、ゴールの考え方を入れてもらうと、すんなり取り組みやすくなりました」(藤原さん)
市川さんは以前からリーダー陣に「自分たちがどうありたいか考えていけるといいよね」と話していました。しかし、日々の仕事に追われて「わかってるんですけどできません」が続いていた。マネジメント・ドライブという”場”が半ば強制的に作られたことで、もともとあった責任感が形になっていったのです。
「”やらなければ”ということを形にする場があるというのは、うちの場合はかなり意味があったのかなという気がしますね」(市川さん)

「持って帰って温めて仕上げる」職人文化から、”その場で言い合える”組織へ

kiCkには、職人的な集団ならではの文化がありました。課題のテーマがあったら持って帰り、温めて熟成して、仕上がったものをもう一回ぶつけ合う。それ自体はいい側面もある一方で、スピードの遅さにつながっていました。その裏には、「下手なことは言わない」という暗黙のルールが存在していたと市川さんは語ります。
マネジメント・ドライブを経て、その空気が変わりました。
「マネドラの経験を経て、その場でインスタントに意見を出し合うことへの心理的ハードルはかなり下がったと思います。”これでいいんだ”とか、”思ったことを言っていいんだ”とか、”この場でやることに意味がある”というムードができました」(市川さん)
その影響は、プログラムの外にも広がり始めます。定例の案件発表会でも、ただ「すごい、いい仕事」で終わらせず、その場で3分間・3人でディスカッションする時間を導入。初回のメンバーの反応は上々でした。
「”あれめちゃくちゃいいですね””もっと時間が欲しい”と言うメンバーがいて、僕からしたらしめしめですよ」(市川さん)
組織の話が、飲み会の話題にまで自然と出てくるようになりました。藤原さんはコミュニケーションデザインのマネージャーである宮崎さんと夜中まで飲んでいた時のエピソードを語ってくれました。
「宮崎が言った一言が結構印象的だったんですけど、『対話って大事だね』と。その重要性に気づいたという話が出てきた時に、そういう土壌──対話が大事なんだということを受け入れやすい状態にみんながなってきたんだと感じました」(藤原さん)

「鳥肌が立つな」── 社長がそう呟いた、リーダーたちの変容

プログラムの中盤から後半にかけて、自発的なプロジェクトが次々と立ち上がりました。プロデューサーチームは人の強みやスキルの型化、1on1の仕組み化といったプロジェクトを自主的に発足。人事の藤原さんのもとにも「一緒にやってくれないか」と声がかかるようになりました。
そしてプログラム終了後、市川さんに鳥肌が立つ瞬間が訪れます。マネージャーの田中さんと宮崎さんが、マネジメント・ドライブで一度整理した自分たちの強みを「本当にそれでいいんだっけ?」と自主的に再検討し、資料を作って持ってきたのです。
「最終的にこれは、会社が掲げるミッション・ビジョン・バリューのチーム版を作るということだと思っていまして、そこがずれていなければこの方向で進めてもいいですか? と言ってきたんです。これは鳥肌が立つなと思いました」(市川さん)
たかだか1年前には「わかってるけどできません」と言っていた人たちが、主体者として自ら動き始めていた。市川さんの口から、思わず漏れたのが「マネドラ、恐るべし」という一言でした。

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日常のコミュニケーションにも変化が表れています。
「彼らの口から、『今こういうことが起きていて、こういうことをやるにはどう考えたらいいですかね』という組織的な相談が増えたり、『市川さんが言うワクワクって何ですか?』ということを世間話のレベルで聞いてくるようになりました。個別のコミュニケーションの話題の中に、組織や会社のことがすごく増えましたね」(市川さん)
最終回のプレゼン大会も、印象的な場となりました。過去最大規模のコンペが走り、連日連夜の繁忙期。それでもメンバーはプレゼンを作り込み、予選会から熱のこもったやりとりが飛び交いました。
藤原さんが特に心を動かされたのは、プレゼン大会を見ていた現場メンバーの反応でした。
「”自分があそこに立った時に何を話そうかと思いました”という現場メンバーが何人かいたんです。リーダーの葛藤がちゃんと現場に継承されていくんだなと。すごく印象的な時間でした」(藤原さん)

「来年も同じ状態で行ける」── 各部門が自走し、炎が塊になっていく

マネジメント・ドライブ導入の年、kiCkは過去最高業績を記録しました。しかし市川さんが感じている手応えは、単なる数字の話ではありません。
「会社全体というよりは、各部門がかなり自走しているなという感覚があります。どこまで行けるかチャレンジしようという動きが各所で起きていて、いろんなところでちゃんと炎が立っている。それが今塊になっていく感覚があります」(市川さん)
以前の好業績とは、明らかに手応えが違うと市川さんは語ります。
「裏を返すと、来年もおそらく同じ状態で行けるなという感覚が結構強いです。それまでは”今年は行けたけど来年わからないぞ”というのがずっとつきまとっていました。それが、”これはいける”と思えたんです」(市川さん)
社内からは「ラボみたいなことをやりたい」という声も上がり始めています。市川さんはそこに、単なる業績だけではないエンジンの存在を感じています。
「単純に仕事がうまくいったということだけではない。マネドラがちゃんと組織の中でエンジンに変わっていっているという感覚はめちゃくちゃありますね」(市川さん)
藤原さんは、6ヶ月という時間がもたらす価値をこう表現しました。
「インプットではなくインストールだと思っています。6ヶ月間ずっとやっていくと、自然に体に入ってくるんです。受け取る側も発信する側も、前提が同じ方向を向いている状態に組織としてなっていく。それはすごい価値だなと思いますし、これは一回では絶対に無理だろうなと思います」(藤原さん)
実際にkiCkではこのインストールの流れに乗せてマネジメント・ドライブの終了後、そのまま人事制度の設計にも着手しています。

「マネドラが終わった後に人事制度を一緒に考えていくと、もう1年間で組織の土台を作りきろうという形になってきています。これをバラバラにやっていくと”あの時のあれは何だったっけ”となってしまいますけど、一気通貫でやれるのは本当にいいなと思いました」(藤原さん)

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「資質すら変える」── 代表・市川さんに起きた意識の転換

マネジメント・ドライブは、メンバーだけでなく経営者自身をも変えました。市川さんは最近、10年ぶりにストレングスファインダーを受けたところ、以前は影も形もなかった「個別化」がトップ5に入ったといいます。
「”もっとみんなこうなればいいのに”という自分の理想や、自分がやれてきたことをどれだけみんながトレースできるかという発想から、もう少し違う形で持続するということの模索が僕の中でも始まりました」(市川さん)
創業メンバーの”自分の劣化版コピーを作る”ような発想から、一人ひとりの特性を見極めて活かす方向へ。意識がシフトしたことが、資質の変化として表れたのかもしれないと市川さんは語ります。
「マネドラを受けていなかったらここまで個別化が上がってこなかったかもしれないという感覚はあります」

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「次のステージ」へ進みたい組織にこそ、マネジメント・ドライブを

最後に、お二人にマネジメント・ドライブを勧めたい企業像を聞きました。
市川さんは2つの企業像を挙げます。
1つ目は、旧来型のトップダウン組織で、次世代への移行を模索している企業。「ミドル層の意識が変われば、そういうムードはもっと会社全体のものになっていきます。まずマネドラから始めてもいいんじゃないかくらいに思っています」
2つ目は、創業期からネクストステージに行こうとしている組織。「手探りでやってきた人たちが、これからバトンを渡して組織を持続可能なものにしていく時に、マネドラあった方がいいですよ」
そして市川さんは、経営者の視点からこう付け加えます。
「研修としての6ヶ月は決して短くはないですけど、企業として見た時の6ヶ月はあっという間です。その期間でここまでの変化が起こるなら、非常にリーズナブルだと思います。まずマネドラをやっておいて、あとから他のものをつけ足していけばいい。そのくらいの効果がありました」(市川さん)
藤原さんはこう語ります。
「自分が手を離しても組織が続いていくことを願っている経営者の会社であれば、どこでもフィットすると思います。口ではそう言わなくても、本当はみんなに考えてきてほしいとか、みんなにこの会社を作ってほしいと思っている人は絶対にいるはずです。そういう人の会社であれば、すべてぴったりはまるのではないでしょうか」(藤原さん)

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